カジオネア

私は加地さんだった。

私は待機していた。目の前のテーブルに置かれた電話が鳴るのを、ただひたすら待っていたのだ。

テレフォン・ブレーン。クイズ・ミリオネアで、テレフォンのライフラインを使用する時に電話に出て答えを教える、回答者の家族や関係者。今日の私は、それであった。知人がミリオネアに出場するというので、番組の収録が行われている時間、テレフォン・ブレーンとして待機していたのだ。

当然であるが、出場者である知人が並べ替えクイズを勝ち抜き、センター席に座ってみのもんたと対峙し、なおかつライフラインのテレフォンを使用しないかぎり、私の出番はない。出番がないまま収録が終わってしまうこともあり得、むしろ出番がないまま終わるテレフォン・ブレーンの方が多いわけで、しかしそれでも私が待機しているのはまるで、パスが出ず無駄骨に終わるかもしれないものの、味方のチャンスにはとりあえず縦へ長い距離走って前線に顔を出す、そんな加地さんのようではないか。

加地さんたる私の元に、テレフォンと言う名のパスは出るのか。どれくらいの時間が経過したのだろう、待ちくたびれた頃、ついに電話が鳴ったのだった。

「収録が終わりました」

それは試合終了を告げるホイッスルだった。知人はセンター席に進出できなかったのだ。残念だったが、少しほっとしたのも事実だ。仮に知人がテレフォンを使う電話をかけてきたとして、私は果たしてストライカーたる知人に、ピンポイントクロスをあげて正解と言う名のゴールをアシストできたのか、少し自信がなかったからだ。

なにしろ私は、加地さんなのだから。

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