「スタジアムって、広いんだねー」
そう言って隣でものめずらしそうにスタジアムを眺めてる美織ちゃん。キックオフよりだいぶ早く着いちゃったけど、退屈してないかな。でも俺、さっきからしゃべりすぎ?沈黙が怖くてついしゃべりまくっちゃうの、悪い癖だよな。でもそのおかげで今日こうして美織ちゃんを誘えたんだけどね。
あの日のバイトの帰り道。偶然美織ちゃんと二人きりになっちゃって、突然で何を話していいかわからなくて、気が付いたら駅までずっと、サッカーの話を一方的にしゃべりまくってた。「ごめん、サッカーなんて興味ないよね」って聞いたら「そんなことないよ、一度行ってみたいんだ」なんて言うから、こんなチャンス二度とないと思って今日の試合誘っちゃった。一緒に行くはずの友達が行けなくなってチケット余っててさ、なんて言ったけど、一緒に行くはずの祐太が行けなくなったのは、その日の夜の俺の電話でだった。洋斗に彼女が出来るためならしかたないな、譲るよ、でもそのかわり絶対にその子をGETしろよ、そう言って快くチケットを譲ってくれた祐太のためにも、今日は何としても美織ちゃんに告白しなきゃな。
って覚悟で来たんだけど…だめだ、やっぱり顔を見ちゃうと勇気が出ない。「青い洋服これしか持ってなくって」っていうノースリーブがよく似合ってて、かわいい。今ここで何万人もの人が青い洋服を着てるけど、美織ちゃんが一番よく似合ってる。同じ青でも美織ちゃんが着ると輝いて見えるのは気のせいかな。
そこから伸びた白くて細い腕と、スタジアムをもの珍しそうに見ている横顔をこっそり盗み見て、心の中で告白のシミュレーションをしてみる。「美織ちゃん、君は『俺ワールドカップ』優勝だ!」ってわけわかんないか。「ボールは友達、でも俺は美織ちゃんとボール以上の関係になりたい!」って何言ってるんだ俺。ああ、想像してるだけでドキドキしてきた。心臓が21番のレプリカユニを突き破って飛び出しそうだよ。やっぱり無理だ、告白なんて勇気、ないよ。
あらためてよんだのですがおもしろい。ちゃんと美織目線と洋斗目線になってるとこがおかしい。kajidaisanjiさんて何者?
>>ゆもさん
何者かと問われれば、変わり者、もしくは不届き者とでも答えざるを得ません。