クロスマスイブ – IV

「サンタさんだ!」
ベランダから何か物音がし、駿は駆け寄ってカーテンを開け、サッシを開けてベランダに飛び出した。冷たい空気が部屋に吹き込む。
「ちょっと、駿、待ちなさい」
あーっ!ベランダで歓声をあげ、部屋に飛び込んできた駿はサッカーボールを手にしている。
「ママ見てこれ、なんか書いてあるよ!」
興奮気味に言う駿から受け取ったボールには、確かに黒いペンのようなもので何か書いてある。母親は息をのんだ。間違いない。そこに書いてあるのは、何度も練習したあのサイン、加地選手のサインだった。
「ねえこれ、英語で加地って書いてあるんでしょ?そうでしょ?」
「そう、みたいね…、うん、加地って書いてあるわ」
母親が困惑しながら答えたその時、ドアが開いて父親が帰ってきた。なんだ、そういうことか。母親は共犯者の微笑みで父親を迎えた。
「お帰りなさい、寒かった?」
「なにごとだ?」
問いには答えず、ボールを抱えて部屋中を走り回っている駿を見て、父親は訪ねた。
「なにごとって、あなたがベランダに投げ込んだんでしょう?」
母親は声をひそめた。
「投げ込んだって何をだ?それよりユニフォーム買ってきたから、あとで頼むぞ」
「あ、パパ、お帰り、見てこれ加地さんのサイン、サンタさんがもらってきてくれたの!」
え、ああ、すごいなあ、よかったじゃないか。あいまいに答えて今度は父親が聞いた。
「お前か?」
「違うのよ、たった今あのボールがベランダに飛び込んできて。私てっきりあなたかと…」

「やっぱりいるんだ、サンタさんはいるんだ!」
はしゃぐ駿の声を背に、夫婦は開け放たれたベランダの窓から肩を並べて外を見た。ベランダにも公園にも通りにも、人の姿はなかった。冷たい空気と静寂があたりを満たしていた。誰のしわざだろう?本物のサンタクロース?まさかね。表情で伝え合い、窓を閉めようとしたとき、ふたりは聞いた。どこか遠くから風に乗ってかすかに届く鈴の音を。それはしばらく鳴り続け、やがて夜空の闇にしみ込むように消えた。ふたりはもう一度顔を見合わせほほえみを交わすと、そっと窓を閉めた。
「駿、ケーキ食べるぞ!」

「クロスマスイブ – IV」への12件のフィードバック

  1. 長くてごめんなさい。読みづらくてごめんなさい。ジオログの「1記事1000文字以内、1日5記事以内」という仕様のせいで細切れになってしまいました、っていうかそういう問題以前に、クリスマスイブに間に合わせたくて慌てて書いたのでひどい作文で、ってそれはいつものことか。とにかく加地さんと、加地さんを愛する全ての人に、メリーふんわりクロスマス。

  2. 今回も心温まるストーリで、駿君も夢がかなってよかった(^^)

    しかし、実際のところ、加地ファンはまだまだ少数派っぽいです。大阪の人に「加地ファンです」って言ったら、「誰?なにする人?」って聞かれました。それで私の紹介文が「kajiakiraのファン」って書かれてました…宮本の右にいる人って言ったら納得したけど。駿君のようなファンがもっと増えるといいなあ。

  3. さっそく読ませていただきました〜!
    傑作ですね!!
    メリーふんわりクロスマス!!

  4. メリークリスマス!2つの物語が1つに重なった時、すごく感動しました。
    僕もサンタクロースにお願いしよう、来年こそ本物の加地さんが見れますように…。

  5. 来年のドイツW杯で加地さんが大ブレイク!小さい商店街の福引の特賞になっちゃうほど知名度が上がるといいですね!!(今のままでもいいけど・・・)

  6. いやー、こうきましたか。恐れ入りました。駿君のように、加地さんに憧れる子供が増えればいいですね。加地さんは人々を幸せにする。これ、間違いない。

  7. 二つの物語がみごとにリンクしてますね!!上手すぎです!!
    加地さんはみんなを幸せな気分にしてくれるサンタクロース、来年ドイツで季節はずれのクロスマスプレゼント・・・くれないかなぁ。

  8. このストーリーほど劇的ではないですが、我が家でもマンションの宅配ボックスにそのサッカーボールは入っていました。妻と子供は大騒ぎ。「こんなデコボコなのによくサイン書けたね、加地さん」某放送局の当選グッズとはいえ、真冬の夜に期せずして届いた「あたたかなひと時」という贈り物。大人になっても、というより大人になったからこそ信じられるサンタさんからのプレゼント。kajidaisanjiさんもよいクリスマスを!

  9. ふんわりクロスがゴール前の選手の頭にピンポイントで合ってゴールに転がり込む光景を髣髴とさせる結末ですね。いやーっ、感動感動。
    しかし福引の特等が加地さんのサインボールという商店街ってのも微妙ですね。(笑)

  10. >>プヨンプさん
    「誰?なにする人?」ってそんな…いや、各方面で活躍する「加地さん」が多いので、その人はきっと、どの加地さん?という意味で聞いたんですよ。

    >>タップさん
    ふんわりクロスマスをお過ごしになれましたか?私はなんというか、ハードなクロスマスでした…

    >>けいたさん
    来年は本物の加地さんが入る大きさの靴下を用意しておきましょう。

  11. >>blueredさん
    それは素敵なクロスマスプレゼントですね、うらやましい。実はこの話、福引か懸賞かで悩んだんです。

    >>もんもんさん
    地元、南あわじ市の商店街あたりでありそうですけどね。映里を代表のFWに呼べばW杯でふんわりクロスからのゴールが見れるかもしれません。

    >>t2hさん
    駿君、いつまでサンタを信じていられるでしょうか。後日ゴミ箱から母がサインを練習した紙をみつけ「お母さんだったんだ…」と愕然、なんて。

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